数量化革命:ヨーロッパ覇権をもたらした世界観の誕生

今回は『数量化革命』という書籍についてご紹介します。本書は、アルフレッド・W.クロスビー著であり、紀伊國屋書店から2003年11月1日に第1刷が発行されました。本書は、ヨーロッパ帝国主義が驚くべき成功をおさめた原因を追究したものです。

ヨーロッパ帝国主義の成功には、西ヨーロッパにおける思考様式の変化が重要な役割を果たしたとしています。この変化により、テクノロジーの進歩、行政、工業、航海術、商業などの分野で重要な技術が習得され、驚くべき成功を収めることができたのです。

ここでいう思考様式とは、現実世界を数量的な観点から考察し表現すること。言い換えれば、現実世界を数式で理解し表現するという考え方です。

過去の成功事例を振り返り、その知見を活かすことは、私たちのビジネスや日常生活においても大いに役立つと考え、心に留めておきたいと考えた項目と自分の考えを備忘録的に残そうと思い記事にしました。

1.数量化の革命:汎測量術の誕生

数量化の前提である、時間、空間、数学についての歴史的な論考が行われています。

1.1.時間について

実体のない(見えない)、切れ目のない時間についての先人達の考え方の変遷が論じられ、時間の測定についても論じられています。

ヨーロッパ初の機械時計は13世紀末に登場したと考えられること、それまでの時間の測定は太陽の位置や砂時計などに頼っていたが上手くいかなかったこと、機械時計の登場により、より正確な時間の測定が可能になったことが論じられています。これは現実世界を数式で表現するための基盤を築く重要な一歩でした。

本書では書かれていませんが、現代の科学や技術の基礎となっているニュートン力学も、現実世界を空間(座標)と時間を使って数式で理解し表現するものです。このような思考様式が産業革命を引き起こしたことを考えると、時間は現実世界を数式で理解し表現する上で非常に重要です

1.2.空間について

中世ヨーロッパが想定していた空間像(宇宙像)が崩壊し、ニュートンが定義した均質で計測できる空間である「絶対空間」や今に通じる天文学が確立していく様子が論じられ、併せて、地図製作術についても論じられています。

地図の作成において数学的な手法が活用されたこと、すなわち、プトレマイオスの投影図法など幾何学を活用した地図製作術が確立したことが論じられています。

メルカトル図法(16世紀半ばに数学的な手法を活用して作成された)による地図を利用することで、地図上の2点間を結ぶ線の角度で船の舵をきれば目的地に到着することを示すことが可能になりました(最短距離ではありませんが)。

経緯度という座標系による地球上の任意の場所の数量化も行われました。

地球という現実世界を数学的な手法を使って2次元の紙に表現したものが地図で、大航海時代を到来させるなど、現実世界の探索や交通の発展に大いに寄与しています。

1.3.数学について

現実世界を数量的な観点から考察し表現する肝になるのが数学です。

アラビア数字や演算子の導入により(一般に使われ始めたのは16世紀頃)、数の表現と演算が大きく進化しました。ローマ数字からアラビア数字への変化は、数学の発展において画期的な出来事で、数値の表現や計算が劇的に簡素化され、数学の応用範囲が格段に広がりました。

※Tips アラビア数字とローマ数字

「2023」  → MMXXIII
「1875689」→ MDCCCLXXVDCLXXXIX

ローマ数字で数を表現するのは大変ですね

2.音楽、絵画、簿記での数量化

2.1.音楽について

譜表の発明(10世紀頃)によって音楽の再現性が高まり、音楽の研究も進んだことが論じられています。今でも音楽を数学的に分析することはあるようです。

譜表は、いわゆる五線で、現実世界(音)を数量的な観点から考察し紙に表現したものです。譜表を使えば、音楽に関する議論や研究も進み、口伝ではなく、紙で現実世界(音)を伝えることができるのです。

譜表の発明や普及によって、多種多様な多くのクラシック音楽などが今日まで伝承できたのではないでしょうか。

2.2.絵画について

絵画においては、幾何学(遠近法)が利用されたことが論じられています。絵画に数学を取り入れることで、現実世界の立体感を2次元のキャンバス上に表現する技術が発展したのです(14世紀頃)。この手法は現在のマンガやアニメにも応用され、絵画の進化に大いに寄与しています。

2.3.簿記について

経済の分野では、簿記が経済取引を表現するための重要なツールとなったことが論じられています。現実世界の経済取引を、数学的な手法を使った帳簿システムで記録、分析することで、経済発展に大いに寄与しました。特に複式簿記の登場(14世紀頃)は経済の取引をより詳細に管理することを可能にし、近代的な経済システムの基礎となりました。

3.新たな思考様式の各分野への伝播

このように、時代のずれは多少あるものの、各分野で、現実世界を数量的な観点から考察し表現する思考様式が大いに進み、革命を起こしました。これらの分野での数学の活用により、テクノロジの進歩や産業革命、航海術の発展などの驚くべき成功がもたらされたのです。

新たな思考様式が各分野で同時並行的に伝播していったことが、驚くべき成功を生んだ鍵ではないでしょうか。

4.ビジネスへの活用

過去の歴史を振り返りながら、現実世界を数量的な観点から考察し表現する思考様式がさまざまな分野の発展に大いに関与していたことを確認しました。現代のビジネスにどのように活かせるのでしょうか?

ビジネスにおいても、現実世界を数量的な観点から考察し表現するという思考様式は非常に重要です。具体的には、データの分析や数値の把握、予測モデルの構築などが挙げられます。また、思考様式を組織内に伝播させること、そのための組織文化を構築することも重要です。

例えば、経済活動を数量的な観点から考える際には、市場のトレンドや需要予測などをデータに基づいて分析することが重要です。データを収集し、数学的手法を用いて傾向やパターンを把握することで、適切な戦略や意思決定が可能となります。

また、ビジネスにおいては現在位置を把握し、目標に向かって進むための方向性を示す必要があります。これは航海術における地図やコンパスに通じるものです。現在の状況を正確に把握するためには、適切なデータの収集と分析が欠かせません。そして、数学的な手法を用いてデータを解釈し、目標に向かって戦略を立てることが求められます。

近年、AIの進化が注目を浴びていますが、その背後にも数学とデータの力があります。AIは大量のデータを学習し、数学的なアルゴリズムに基づいて予測や意思決定を行います。データ駆動型のビジネスは、数学とデータの力を最大限に活用し、競争力を高めることが重要な要素となっています。