ゼロゼロ融資返済と企業倒産増加に思うこと
東京商工リサーチによれば、2023年上半期(1-6月)の全国企業倒産件数(負債額1,000万円以上)は、4,042件となりました。これは前年同期比で32.0%増加した数字です。また、「ゼロ・ゼロ融資」後の倒産件数は322件であり、前年同期の174件に比べて増加しています。
産業別の倒産件数についても、25年ぶりに10産業すべてが前年同期を上回りました。さらに、地区別の倒産件数も北海道や東北などの9地区全てが前年同期を上回ったと報告されています。
メディアでも、企業倒産が増加傾向にあることや「ゼロ・ゼロ融資」後の倒産が増加していること、そしてゼロ・ゼロ融資の返済開始が2023年7月以降にピークを迎えることなどが伝えられています。
こうした状況を鑑みると、資金繰り管理がますます重要になると考えられます。そのため、今回は資金繰り管理の重要性と資金繰り管理の方法について紹介したいと思います。
1.資金繰り管理の目的と重要性
資金繰り管理とは、企業が経営活動を円滑に進めるために、必要な資金の収支を計画し管理することです。これは企業が将来の資金ニーズを予測し、必要な資金を適切なタイミングで調達するための重要なプロセスです。企業は安定した財務状態を維持することで、経営上のリスクを軽減することができます。企業倒産が増加傾向が鮮明になる中、資金繰り管理は、ますます重要になると考えられます。
1.1.支払い計画と流動性の確保
企業は日々の業務運営や支払いに必要な現金を確保する必要があります。資金繰り管理は、必要な時に必要なだけの現金を手元に持つことで支払い遅延や債務不履行を回避し、業務の円滑な遂行を保ちます。
言い換えれば、資金繰り管理を実践することで、企業の財務状況におけるレッドフラッグ(キャッシュフローの乱れや支払い遅延のサインなどの危険信号)を早期に発見し、適切な対策を講じることで、経営上のリスクを最小限に抑えることができます。
1.2.短期的・長期的な安定性の確保
適切な資金繰り管理は、企業の短期的な安定性と長期的な成長に密接に関わっています。収入と支出のバランスを取り、必要な資金を必要な時に手に入れることで、企業は日々の業務を円滑に進めることができます。また、資金繰り管理の良好な実践は、企業の信用力や財務健全性を向上させ、金融機関などからの資金調達を受けやすくします。
1.3.営業資金の最適化
適切な営業資金の維持と最適化にも関係します。過剰な在庫や未回収債権の増加などの要因によって資金が固まると、資金不足に陥る可能性があります。資金繰り管理は、これらの要素を見極め、効果的な営業資金の管理も実現します。
1.4.経営判断の根拠とリスク管理
企業には予期せぬ出費が生じることがあります。設備の故障や災害など、予想外の事態に対応するためにも、適切な資金繰り管理が必要です。
また、資金繰り管理は、経営判断の根拠となります。資金繰り表や予算の作成などによって、将来の資金ニーズや収益性を見極めることができ、予測可能なリスクや不確実性に対するシナリオをプランニングすることで、経営上のリスクを最小化し、安定した経営を実現することができます。
2.資金繰り管理の具体的な方法とツール
資金繰り管理を効果的に行うためには、具体的な方法やツールが必要です。以下に、資金繰り管理の具体的な方法とツールを紹介します。
2.1.資金繰り表の作成
月次で資金繰り表を作成し、内容をレビューします。また、数値の見直しも行います。これにより、資金需要、資金の状況を認識し、問題点や改善点を特定し、必要な調整や対策を行うことで、資金繰りの安定を確保します。
2.1.1.資金繰り表への記載内容例

資金繰り表のサンプル様式を上に示しました(資金繰り表には決まった様式はありません)。資金繰り表は、前月の繰越金、経常収支、経常外収支、財務収支、そして翌月の繰越金に関する情報を、当月の実績と翌月以降の予定を記載することで表現します。これらの数値は、総勘定元帳やその他の帳簿を使用して勘定分析を行ったり、予測したりして記入していきます。
①前月繰越金、翌月繰越金
◆実績
総勘定元帳の現預金勘定の数値(前月末残高および当月末残高)を記載します。ただし、預金には普通預金、当座預金、定期預金など、預け入れ期間など異なる種類があります。また、一部の預金は担保として使用される場合もあります。これらの要素を考慮して、数値を調整し、資金繰り表に記載します。調整方法は組織によって異なる場合があります。
◆予定
前月の翌月繰越金には前月の残高を転記し、翌月繰越金には、前月繰越金+経常収支+経常外収支+財務収支を計算し、記載します。
②経常収支
経常収支とは、営業活動に関連する収入と支出のことであり、イメージ的には営業損益につながる収支です。収入で言えば、現金売上額、売掛金回収額などが該当します。支出で言えば、現金仕入額や買掛金支払額、人件費、諸経費などが該当します。
ただし、資金繰り表に記載するのは、現預金の動きがあった収支のみであることに注意が必要です。例えば、掛売上の場合は、売上金額そのものではなく、売掛金の回収額を記載します。減価償却費は支出をともなわない費用であるため、資金繰り表への記載はしません(設備投資に係る支出は後程説明する経常外収支で記載します)。
◆実績
具体的な数値は、勘定分析などを通じて算出されます。売掛金回収額を例に説明します。当月末の売掛金残高は、「月初の売掛金残高+当月の掛売上金額-売掛金回収額」となるため、売掛金回収額は「月初の売掛金残高+当月の掛売上金額-当月末の売掛金残高」で求められます(他の原因(科目)による売掛金の減少も考慮されます)。
このような勘定分析を他の勘定にも適用し、実績の数値を計算していきます。
◆予定
予定額は一定の予測に基づいて算出されます。売掛金回収額を例に説明します。売掛金回収額の計算方法は実績と同様で、「月初の売掛金残高+当月の掛売上金額-当月末の売掛金残高」となります。予定と実績の違いは、予定月の掛売上金額と月末の売掛金残高(売掛金回収額)を予測する必要がある点です。
予定月の掛売上金額に予算数値または予算数値を調整した額を用いて、「月初の売掛金残高+当月の掛売上の予測金額」を計算します。また、過去の実績などから回収される割合を予測し、月末の売掛金残高と売掛金回収額を予測します。月末の売掛金残高は翌月の月初の売掛金残高となり、売掛金回収額は予定月の売掛金回収額として資金繰り表に記載されます。翌々月以降についても、同様の予測方法を繰り返し、各月の予定額を算出して資金繰り表に記載します。
このような予測手法は他の勘定にも適用され、予定額が計算されていきます。
Tips 未払金について
未払金には、経常収支に関連するものと経常外収支に関連するものがあります。資金繰り表を作成する際には、通常、経常収支と経常外収支を区分して記載するため、未払金も経常収支と経常外収支を区別して帳簿に記録しておくことで、金額の算定が容易になります。
③経常外収支
経常外収支とは、経常収支を除いた範囲での収入と支出のことであり、財務収支(借入金の借入や返済など)は含まれません。イメージ的には営業外損益や特別損益につながる収支と言えます。収入の例としては、不動産売却収入などが該当します。支出の例としては、設備投資支出などが挙げられます。
◆実績
具体的な数値は、勘定分析や契約書などを元に算定されます。建物売却収入を例に説明します。資金繰り表に記載するのは、現預金の動きがあったものであるため、建物売却によって得た現預金の数値を記載します。建物の売却益や建物勘定のマイナス額ではなく、現預金として受け取った収入額を資金繰り表に記載します。たとえば、帳簿金額が100万円であり、売却益が40万円、収入額が140万円であれば、収入額の140万円を資金繰り表に記載します。
◆予定
予定額は一定の予測に基づいて算出されます。機械設備購入を例に説明します。将来的に機械設備の購入を予定している場合、資金繰り表の予定月に購入予定額を記載します。購入予定額は業者からの見積もりなどを参考に算定します。
④財務収支
財務収支とは、組織の財務活動に関連した収入と支出のことであり、運転資金の借入や借入金の返済などが該当します。
◆実績
具体的な数値は、勘定分析や契約書などを元に算定されます。資金の借入を例に説明します。契約書や金融機関の口座情報などを参照し、借入金の額を資金繰り表に記載します。
◆予定
具体的な数値は、勘定分析や契約書などを元に算定されます。借入金の返済を例に説明します。契約書を参照し、借入金の返済予定額を資金繰り表に記載します。
2.2.毎月の定期的なレビューとアップデート
資金繰り管理は定期的な活動であり、毎月のレビューとアップデートが欠かせません。月次の予算対実績の比較や資金繰り表の分析を通じて、資金の状況変動やリスクを把握します。
資金繰り表の分析を行うことで、現状の経営計画において資金不足の可能性があるなどの問題点を特定したり、将来の予測を悲観的に行った場合(売上が10%減少する、売掛金の回収率が低下するなど)における資金状況を数値で確認できます。これにより、問題点や改善点を特定し、必要な調整や対策を行うことで、資金繰りの安定を確保できます。
ビジネスにはさまざまなリスク要素が存在します。資金繰り管理では、リスクの評価とシナリオプランニングが重要な役割を果たします。早期にレッドフラッグを発見し、リスクを予測することで、対応策を策定します。異なるシナリオに基づいた予測や対策を検討し、リスクに備えた柔軟な資金繰り管理を実施します。
2.3.財務指標などを使った営業資金の最適化
月次の予算と実績の比較や資金繰り表の分析を行い、資金の状況変動やリスクを把握した後、さまざまな財務指標を活用して、資金の滞留要因を特定し、対策を検討していきます。以下では、棚卸資産と売上債権を例に説明します。
①棚卸資産
過剰在庫は、資金滞留の要因の一つとなります。定期的に棚卸回転期間を把握し、棚卸資産が適切に回転しているかを検証します。ただし、繁忙期には在庫を増やす必要がある場合もありますので、単純に棚卸回転期間が増加しているだけで問題になるとは限りません。しかし、経営状況や資金状況の悪化を示している場合もあります。そのような場合には、在庫の管理や調達プロセスの改善を検討するなどの対策が求められます。
最近の企業倒産の増加傾向を考慮すると、販売先の経営悪化により販売予測を下方修正しなければならない可能性もあります。従来の販売予測を基にした在庫計画も見直す必要があるかもしれません。
②売上債権
売上債権回収の停滞も、資金滞留の要因となります。定期的に売上債権回転期間や売上債権の年齢を把握し、売上資産が適切に回収されているかを検証します。
最近の企業倒産の増加傾向を考慮すると、販売先の経営悪化により売上債権が回収不能になる可能性もあります。そのような場合には、債権管理の徹底、請求管理の改善、売掛金の回収手段の見直しなどをする必要があるかもしれません。売上債権の回収状況に注意を払い、迅速かつ適切な対応を行うことが求められます。
3.まとめ
資金繰り管理は、企業経営において極めて重要な要素であり、無視することはできません。適切な資金繰り管理を実践することで、企業は財務の安定性を確保し、持続可能な成長を実現することができます。以下に、資金繰り管理の重要性と実践の要点をまとめます。
資金繰り管理は、企業の財務安定性と経営リスク管理に直結しています。適切な資金の収支計画と管理により、資金不足や支払い遅延といった問題を予防し、企業の経営安定性を確保します。
資金繰り管理は、短期的なビジネスの安定性だけでなく、長期的な成長や持続可能な競争力を築くためにも重要です。資金の適切な配分と投資計画の策定により、新たなビジネスチャンスや成長戦略を追求することができます。
資金繰り管理には、予算の作成と監視、資金繰り管理表などの作成と分析、支出の見直しと節約策の実行などが含まれます。
資金繰り管理は、企業が経済環境の変動や競争の激化といった厳しい状況に適応し、安定的な発展を遂げるために不可欠です。経営者や経営チームは、資金繰り管理の重要性を認識し、適切な手法を実践することで、企業の将来を確かなものにすることが求められます。