メタバースに思うこと

先日(2023年6月28日~30日)、東京ビックサイトで開催されたメタバース総合展を訪れました。久しぶりに現実の展示会に足を運び、非常に刺激を受けました。展示会には予想以上の多くの人々が訪れていたことにも驚きました。

展示会では、メタバースに関連する先端デジタル技術やマーケティング関連技術などが展示されており、XR、VR、AR、MRに関連した技術には特に刺激を受けました。

一方で、私はメタバースプラットフォームであるClusterに登録し、ソシャル系のメタバースの経験もあります。それらの経験を踏まえて、メタバースについて考えたことを今回は紹介したいと思います。

1.メタバースとは

メタバースとは、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、オンラインゲーム、ソーシャルメディアなどの技術を組み合わせたデジタル空間(仮想空間)を指す言葉です。

メタバースでは、仮想空間内で他の人と対話し、コンテンツを作成し、ゲームをし、ビジネスを行うことができます。たとえば、仮想世界内でのソーシャルメディアプラットフォームやオンラインショッピング、仮想通貨やブロックチェーン技術を活用した経済活動などが展開されつつあります。

また、メタバースは、個人のアバター(仮想的な自己表現)を通じて他の人とインタラクションをすることも特徴の一つです。人々は自分自身を仮想的な存在であるアバターで表現し、仮想世界で他の人との交流や協力を楽しむことができます。

ただし、メタバースの具体的な形態や実現方法はまだ議論の余地があり、技術的な課題や倫理的な問題も存在します。そのため、今後の発展や普及には様々な課題を解決していく必要があると考えます。

Tips メタバースの類型

メタバースの類型には明確な定義が存在しないと考えていますが、一応の区分けを試みてみました。

◆ソーシャルメタバース

 ソーシャルインタラクションやコミュニケーションが中心となるメタバース。 ユーザ同士が仮想空間内で交流し、リアルなコミュニケーションやアクティビティを楽しむことができる。

◆ゲームメタバース

 ゲーム要素が組み込まれたメタバース。ユーザはゲームのような目標やルールに基づいたアクティビティや冒険を楽しむことができる。

◆教育メタバース

 学習や教育を目的としたメタバース。ユーザは仮想空間内で教育プログラムや学習コンテンツにアクセスし、対話や体験を通じて学ぶことができる。

◆クリエイティブメタバース

 ユーザが自由に創作活動を行えるメタバース。3D空間内で自身のアート作品やデザイン、音楽、映像などを制作し、発表や共有ができる。

これらのジャンル分けは一般的な傾向ですが、実際のメタバースは異なるジャンルの特徴を組み合わせたものも存在します。また、技術の進歩により新たなジャンルや特徴が出現する可能性もあります。

2.世間でのメタバースの印象

メタバースは少し前までメディアで盛んに取り上げられていました。テレビではバーチャル渋谷が放送されるなど、その存在が注目されていた記憶があります。しかし、最近では生成AIの話題が盛り上がっており、メタバースに関する情報はあまり目にしません。

下図は、メタバースについてのGoogleサジェストをテキストマニングツールにかけた結果です。この結果から人々がメタバースについてどのような興味を持っているのかを類推することができます。分析にはユーザーローカルのテキストマイニングツール( https://textmining.userlocal.jp/ )を使用しています。

この結果を見ると、「面白い」「はまる」「伸びる」といったポジティブなワードが並ぶ一方で、「失敗」「つまらない」「胡散臭い」「やめる」といったネガティブなワードも並んでいます。私は、これが現状のメタバースに関する世間の印象だと思います。

3.私のメタバース体験の感想

現時点のメタバースは面白みに欠ける一面がある一方で、臨場感は非常に魅力的だ。ソーシャル系のメタバース(Cluster)を経験しての私の感想です。

面白みに欠けるとは、仮想空間に入っても人が少ないことが主な要因です。ソーシャル系のメタバースであるにも関わらず、ロビー(ポータルサイトのような場所)には多少なりとも人がいるものの、他の仮想空間に移動すると人がほとんどいない印象を受けました。私はインタラクティブな空間を楽しむことを期待していたので、少しガッカリしました。

一方で、臨場感は感じることができました。具体的には、他の参加者の会話が聞こえるのですが(他の人がマイクをオンにしている場合)、それが現実の空間と同じように聞こえるということです。つまり、会話している人たちの近くにいれば大きな声が聞こえ、離れると声が小さくなり、最終的には聞こえなくなります。この臨場感には本当にワクワクしました。音楽イベントなどには特に有用だと思います。

現時点でのメタバースの活用方法は、メタバース上で様々なイベントを計画し(楽曲や映像作品の発表など)、他のメディアを活用して人々に参加を促す方法や、親しいグループでワールドツアーを楽しむ方法などが考えられます。これはかつてインターネットの普及が始まった頃にネットサーフィンが流行した時期に似た感覚です。

将来的には、メタバースのインタラクティブ性や臨場感を存分に味わえる魅力的なコンテンツや仕組みが充実すれば、メタバースの普及につながると考えます。他のメディアでは得られない、メタバースならではのコンテンツや仕組みが重要な要素になるでしょう。

4.メタバース総合展で感じたこと

メタバース総合展に参加する前までは、メタバースといえば実際に経験しているソーシャル系のメタバース(Cluster)やゲーム系のメタバースについて意識していました。しかし、展示会で3DCG、グラフィックス、映像など、メタバースを支えるさまざまな技術について考える機会を得たことで、ビジネスの可能性が広がっていることを実感しました。以下に、特に印象に残っている項目をご紹介します。

4.1.インカメラVFX

「インカメラVFX」とは、CGと現実の被写体を組み合わせて撮影するバーチャルプロダクションの手法の一つであり、大河ドラマ「どうする家康」でも使用されています。この手法では、3DCGで作られた仮想空間を大型のLEDウォール(大型のLEDディスプレイ)に投影し、そのLEDウォールの背景に立つ演者をLEDウォールと一緒に撮影することで、合成技術を使用せずに映像作品を制作するものです。テレビで見たことはありましたが、実際に目の当たりにして感動しました。

4.2.モーションキャプチャとリアルタイムキャラクタ合成

演者にセンサーを装着し、演者の全身の動きをリアルタイムでキャプチャー。その動きを3Dアバターに即座に反映させ、実際のカメラ映像と合成して出力する様子を紹介していました。この映像では、顔の表情や指の動きまで非常に詳細にキャプチャーされていることに驚きました。フェイシャルスキャナーやセンサー付きのグローブなどが使用されていたようです。

4.3.その他(リアルタイムエフェクト合成、デジタルツイン、3DCGとシュミレータ連動)

新製品の発表の場を想定し、実際に撮影しているカメラ映像と3DCGをリアルタイムで合成してライブ配信する様子や、演者がダンスしているカメラ映像に舞台装置がない状態でエフェクトを加えたライブとして配信をする様子が紹介されていました。

空撮データ等を用いて大学構内のデジタルツイン(メタバース)を構築し、オープンキャンパスツアー、災害時の避難誘導訓練シミュレーションに活用する事例が紹介されていました。

3DCGとシミュレータを連動させて除雪の訓練を行っている事例が紹介されていました。

5.メタバース及びメタバースを支える技術に感じるビジネスの可能性

最後に、メタバース及びメタバースを支える技術に私が感じるビジネスの可能性についてまとめたいと思います。

5.1.ソーシャルメタバース

私はソーシャル系のメタバース(Cluster)を体験してみましたが、かつて話題となったセカンドライフと類似していると感じました。ただし、セカンドライフが注目された時代と比べて、AIなどの技術は確実に進歩しています。こうした技術をソーシャル系のメタバースに組み込むことで、興味深い存在になる可能性があると考えています。

具体的には、メタバースの住人は人間だけでなく、AIアバターでもいいしょう。例えば、RPGゲームのように、プレイヤーが操作するアバターがAIアバターに話しかけると、メタバースの活用ヒントやイベント情報を提供してもらえてもいいかもしれません。また、AIアバターと連携したポイントラリーや、AIアバターが仮想店舗の接客を担当することも考えられます。現在の生成AI技術などを活用すれば、実現可能性があると考えます。こうすることで、メタバースに活気をもたらす可能性を感じます。

ソーシャル系のメタバースにおけるコミュニケーションの機能は、他の分野でも重要な役割を果たす可能性があると考えています。これについては、後述するゲームメタバースのセクションで詳しく議論します。

5.2.ゲームメタバース

私は現在、オンラインゲームを楽しんでいます。複数人が同じ仮想空間でチームを組んで戦うタイプのゲームで、自分のキャラクターを育成しながら遊ぶことができます。一部のプレイヤーは、ゲーム内のチャット機能を活用して他のプレイヤーと交流することを楽しんでいるようです。

私はこのオンラインゲームをゲームと見なしていますが、別の視点から見ると、立派なメタバースとも言えるでしょう。ただし、ゲームが中心で、他の機能(例えばチャット)は補助的な要素に過ぎません。

具体的には、ゲーム内のチャットは一定数の発言があると過去のチャット内容が消えてしまい、参照することができません。また、チームメンバーと協力する場面など、文字入力に基づくチャットでは対応しきれない場面もあります。そのため、ゲーム内のチャットとは別に、履歴を保持するチャットやボイスチャットを利用しています。

ゲームにソーシャル系のメタバースの機能が組み込まれると、ゲームがより楽しくなる可能性があります。また、仮想空間での他のプレイヤの会話が、現実の空間の様に聞こえる機能(会話している人たちの近くにいれば大きな声が聞こえ、離れると声が小さくなり、最終的には聞こえなくなる機能)は、臨場感を生み出し、ワクワク感を高めると考えられます。さらに、仮想空間で現実の音を再現できれば、より現実的な戦闘環境を作り出すことも可能かもしれません。

5.3.教育メタバース

「メタバース総合展で感じたこと」のセクションで例示したデジタルツイン(メタバース)を利用した災害時の避難誘導訓練シミュレーションや3DCGとシミュレータを連動させた除雪の訓練が示すように、工夫次第で様々なコンテンツが考えられそうな分野だと考えます。

5.4.クリエイティブメタバース

音楽や動画、絵画などを制作している人々が、メタバース上で作品を発表したいという声が聞かれます。このようなニーズが進展すると予想されます。

一方で、メタバース総合展で先端的なデジタル技術を目にし、Unityなどのゲームエンジンを操作する中で、メタバース上の仮想空間(3DCG空間)そのものに大きな価値を感じました。

具体的には、既に構築されているメタバース上の仮想空間(3DCG空間)を活用したインカメラVFXや動画制作が考えられます。撮影の場、素材として利用できる可能性があると考えるのです。

さらに、既に構築されているメタバース上の仮想空間(3DCG空間)は、ソーシャルメタバース、ゲームメタバース、教育メタバースなどのシステム構築においても有用な素材となり得るでしょう。

このような状況が進展すれば、メタバース上で仮想空間(3DCG空間)を制作するクリエーターの数も増えることでしょうし、メタバースに新たな活気をもたらす可能性を感じます。

5.5.今後の課題など

メタバースの具体的な形態や実現方法については、まだ議論の余地があり、技術的な課題や倫理的な問題も存在しています。

具体的な課題としては、メタバースの普及には時間がかかる可能性があることや、高性能な機器が必要になる可能性があることが挙げられます。また、個人情報の管理やセキュリティ対策なども重要な課題です。さらに、チャット荒らしなどの倫理的な問題も存在します。これらの課題を解決する必要があり、メタバースの発展と普及に向けて取り組んでいく必要があると考えます。

メタバースの未来はまだ明確ではありませんが、技術や倫理などの観点からの改善や対策を行いながら、より持続可能で包括的なメタバースの実現を目指していく必要があると考えます。