オープンデータのビジネスへの活用:政府統計の総合窓口(e-Stat)

私たちの現代社会では、データが生活やビジネスの基盤となっています。政府が収集している統計データは、国や地域の様々な側面を反映しており、社会経済の動向や人口統計、産業分析など、重要な情報を提供しています。

ここで重要なのは、そのデータがオープンデータとして提供されることです。オープンデータとは、誰でも自由にアクセスし、再利用することができる形式で公開されたデータのことを指します。そのため、政府統計の総合窓口であるe-Statは、国民や研究者、企業などさまざまな利用者にとって貴重な情報源となっています。

この記事では、e-Statのビジネスへの活用について紹介していきます。

Tips YouTube動画など

YouTube動画、gaccoの教育動画、GitHubのソースコード、Canvaの画像などもオープンデータ的に扱えると考えますが、今回は政府統計の総合窓口(e-Stat)に絞って紹介します。

1.政府統計の総合窓口(e-Stat)とは

e-Statは、日本政府が運営する公式のデータポータルサイトであり、政府が収集・管理している統計データを一元的に提供するためのプラットフォームとして機能しています。

例えば、国勢調査、労働力調査、国民所得統計、物価指数、貿易統計など、幅広い分野の統計データが、時系列データや地域別データなどの形式で公開されており、さまざまな形式で利用できるため、様々な分野での研究やビジネス活動に活かされています。

2.中小企業様、個人事業主様がオープンデータ(e-Stat)を活用する意義

オープンデータ(e-Stat)の活用は、中小企業様、個人事業主様にとって、次のような理由から有益と考えます。

2.1.市場の洞察と競争力の向上

オープンデータ(e-Stat)を活用することで、市場の洞察を得ることができます。市場トレンドや消費者行動の分析を通じて、需要の変化や新たなビジネス機会を把握することが可能です。これにより、競合他社よりも先んじて市場に対応し、競争力を向上させることができます。

Tips データから見えるビジネスの実像

家計調査を利用すれば、時系列で家計における支出項目を分析できたりします。
地域の経済基盤を利用すれば、地域での課税所得金額が分析できたりします。
民間企業投資・除却調査を利用すれば、民間企業の投資状況を分析できたりします。

2.2.新たなビジネスモデルの創出

新たなビジネスモデルの創出に役立ちます。データの分析やその組み合わせにより、既存の事業へ新たな付加価値を追加したり、新しいサービスや製品を開発することを検討するきっかけにできます。

Tips データから見えるビジネスチャンス

人口統計データや家計調査などを利用することで、新たなビジネスの切り口を検討できます。
例えば、人口統計データからターゲットとする性別年齢層や地域を絞り込み、家計調査で消費動向を把握した上で、既存の事業へ新たな付加価値を追加したり、新しいサービスや製品を開発したりすることを検討できます。

2.3.効果的な業務プロセスへの改善

人口統計データを利用してマーケティング戦略を改善するなども可能です。データに基づいた意思決定と業務プロセスの改善は、生産性向上につながります。

Tips ターゲット顧客を把握する

リアル店舗の場合、自店舗の商圏(例えば10km圏内)にお住まいの方々のプロファイル(性別・年齢層など)を把握することができれば、商売に役立つとは思いませんか?

2.4.無料で利用することができる貴重なリソース

中小企業様や個人事業主様にとって、無料または低価格な製品やサービスを組み合わせてビジネスに活用することは、ある種のイノベーションを促し、リープフロッグ型の成長を遂げる可能性を秘めていると考えます。

e-Statの利用は無料でありながら、信頼性の高いデータを入手することができます。これは中小企業様などにとって、貴重な情報源となります。競争力を高め、効果的な意思決定を行いたいと考える企業様にとって、e-Statはビジネス上の重要な要素だと考えます。

Tips 以前のプロジェクトでの経験

以前、私はプロジェクトでエリアマーケティングのシステムに関わった経験があります。自店舗の商圏の広さを考慮し、その商圏に居住する人々を見込みの顧客として捉え、また実際のお客様になっていただくためのプロセスにシステムを活用したいとの要望でした。その時、e-Statが利用できれば、多様な施策を展開することができたのではないかと考えています。

また、自社の売上を増やすために、自店舗を中心とした地図を活用して施策を検討している企業も存在しました。現在なら、e-Statに含まれる統計地理情報システム(jSTAT MAP)を活用することができるでしょう。

3.オープンデータ(e-Stat)の活用例

3.1.法人企業統計調査の活用

上図は、法人企業統計調査から抽出した情報の一部です。対象業種は食品製造業であり、対象年は2017年から2021年で、資本金が1億円未満の企業の貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)の項目を抽出しています。これにより、集計されたBSとPLの項目を企業数(母集団数)で割ることで、対象業種の平均的なBSとPLの情報を把握できます。

対象業種や資本金の規模、BSとPLの項目は選択可能ですので、自社が比較対象としたい規模の企業のBSとPLの項目の平均値を把握することができます。この情報は、自社のBSとPL、さらに経営指標を業界の平均値と比較することで、自社の位置を把握するのに役立つものです。

一般的に上場企業などの規模の大きな企業では、比較対象となる企業の有価証券報告書などを入手し、自社と比較することが可能ですが、中小企業の場合、こうした情報を入手するのは困難です。そこで、e-Statを活用して、比較対象としたい規模の企業のBSとPLの項目の平均値を把握することが有益であると考えます。

比較情報を使用して、自社の強みや弱みを定量的に把握し、さらに定性的な情報も加味しながら、経営戦略の策定に役立ててみてはいかがでしょうか。

3.2.統計地理情報システム(jSTAT MAP)の活用:リッチレポートの作成

上図は、リッチレポートの作成例です。リッチレポートは、中心点と半径または到達圏(例えば徒歩で10分圏内など)を指定するだけで、指定したエリア内(半径指定の場合は同心円)の基本的な統計情報をまとめたレポートを作成するものです。この操作は非常に簡単で、エリア内の基本的な情報の集計を自動的に行い、エリア分析レポートとして表計算ソフトに出力してくれます。

半径の設定は3段階で行えます。最大で半径10kmまでの数値を設定できます(例えば、半径1: 2km、半径2: 5km、半径3: 10kmなど)。到達圏の場合には、徒歩または車の移動手段、移動速度、移動時間を指定します。ただし、数値には上限があります(徒歩: 60分、20km/h、車: 30分、80km/h)。

統計情報のレポートには、基本分析、年齢別人口、世帯数、経済センサスなどの情報が含まれます。経済センサスには、産業別事業所数、従業者規模別事業所数、従業者規模別従業者数などが記載されています。これらの情報を活用することで、特定のエリアの基本的な統計情報を簡単に把握することができます。

自店のリアル店舗商圏(例えば10km圏内)にお住まいの方々のプロファイル(性別・年齢層など)を把握するのに役立つのではないでしょうか。

3.3.統計地理情報システム(jSTAT MAP)の活用:統計グラフの作成

上図は、統計グラフの作成例です。統計グラフは、統計値ごとに地図内のエリア(行政界など)を色分けする機能を持っています。この例では、2020年の国勢調査の情報を使用して、地図内のエリア(行政界)を色分けしています。具体的には、小地域(町丁・字等別)を集計単位とし、世帯の家族類型別一般世帯数(統計表)を使用して、6歳未満世帯員のいる一般世帯総数を集計し、新宿区の地図上で色分けして表示しています。

画面上の統計地図は、5つのランクで色分けされており、凡例に従って表示されます。6歳未満世帯員のいる一般世帯総数が少ない地域は紫色に、多い地域は赤色になっています。統計地図上には、他の統計値をマッピングすることも可能です。

また、統計地図には自社の情報などをマッピングすることもできます。例えば、自社の店舗の場所を統計地図上に表示するなどの活用が可能です。

統計地図を見ながら、出店を計画したり、ポスティングを計画するなど様々な販売施策が考えられます。

4.まとめ

オープンデータ(e-Stat)の活用は非常に重要だと考えます。なぜなら、オープンデータ(e-Stat)の活用は新たなビジネス機会を生み出し、ある種のイノベーションを起こす可能性があるからです。

オープンデータ(e-Stat)の活用により、企業は多様な施策を展開することができるでしょう。データを活用することで、市場動向や消費トレンドを把握し、競争力のある戦略を立案することができます。また、顧客のニーズや行動パターンを理解し、個別にターゲットを絞ったマーケティング施策を展開することも可能です。

オープンデータ(e-Stat)は豊富な情報を提供しており、それを活用することで企業は市場の変化に素早く対応し、競争力を高めることができるのです。新しいアイデアやビジネスモデルの創造に役立ち、成長の機会を提供してくれるでしょう。